佐賀県医師支援センター

病理診断科

病理診断科の特色

 様々な疾患や腫瘍の確定診断を行う、医療の基盤となる診療科です。

 術式決定や検査の精度に大きく関与する、術中・検査中の迅速診断や、医療の検証・病態解明につながる病理解剖も行います(臨床実習・研修をした人は何等かの形で病理診断に触れたと思います)。ベッドフリーなため、急な呼び出しや当直がなく、自分の時間を確保しやすい診療科です。

 その一方、幅広い分野をずーっと勉強し続けなければいけません。でも、「勉強したことが診療に貢献できている」ことを実感できた時は、やりがいを感じることができます。

 病理診断には責任も伴いますが、「勉強」と「技術(検鏡力)」が十分であれば、その責任を全うした上で、自分の時間を確保できます。全国的にニーズが高く、就職に困らない点や、ワークライフバランスを取りやすい点、定年後も仕事を続けやすい点なども、病理診断科の魅力と思います。

 ちなみに昨今、「AIに病理医の仕事が取られるのではないか」という声も聞かれますが、「病理医がAIを管理する」ことはあり得ても、「AIが病理医にとって替わる」ことは絶対にあり得ません(リンク: [ステートメント:人工知能AIと病理医について] 参照)。

 それどころか病理検体数は増加の一途で、遺伝子診断やコンパニオン診断など、新しい業務もどんどん増加しており、病理医の需要はますます高まっています。

 「勉強」と「顕微鏡をみること(検鏡)」が好きな人は是非、病理診断科(病理医)を将来の選択肢として考えてみてください(逆に、「勉強」と「検鏡」のどちらかひとつでも苦手な人は、選んではいけない診療科です)。

臨床実習の特色

 4年生までの学部教育では、「臨床医学の基盤としての病理学」を学習してきたと思いますが、5年生の病理診断科の臨床実習(2週間)では、「臨床診療としての病理診断科の業務」を少しでも知ってもらうことに主眼を置いて、以下1〜4のカリキュラムを組んでいます。

1.病理診断の現場を体感してもらう

 ほぼ毎日行っている、病理診断のカンファレンスに参加してもらいます。医学部4年生までの病理実習とは比較にならない程の、標本数と情報量に圧倒されると思いますが、5年生で全てを理解する必要はありません。病理標本以外にも、臨床所見や血液検査、画像所見など、あらゆる情報を駆使して、病理診断が行われていることを知ってもらえたらと思います。

2.病理解剖、病理解剖所見会、臨床医とのカンファレンスを体験してもらう

 病理解剖が出た場合には病理解剖についてもらいます。病理解剖所見会や、臨床医とのカンファレンスに出席(病理医が出席している全てのカンファレンスへの出席は日程的に無理ですので、一部になります)してもらい、臨床医と病理医の関わりについて知ってもらいます。

3.病理標本が作製されるプロセスを知ってもらい・体験する

 切除された臓器や生検検体が、ガラスプレパラートになるまでの過程を勉強してもらいます(実臨床に出た際に、とても重要な知識となります)。さらに、自分達で実際に標本を作製してもらう、標本作製実習もカリキュラムに入っています。

4.細胞診・医療安全・臨床検査技師との関わりについて知ってもらう

 細胞診は組織診と並んで、診療に欠かせないものです。また、多数の標本を作製する過程において、医療安全への配慮もなくてはなりません。このような大切な業務を支えている、臨床検査技師ついて知ってもらいます。

臨床研修の特色

 初期研修医のローテーション(1-2ヶ月)は、「病理医としての実際の業務を体験してもらう」ことに主眼を置いています。切り出し、検鏡、カンファレンスでの提示といった業務を体験して、自分の「病理医としての適性」を確認する機会になればと思います。

病理を学ぶ、もう一つの機会:大学院

 学生・研修医向けとは言えないかもしれませんが、臨床医の道を選択した後に、大学院生として病理を勉強する方法もあります。大学院生として勉強する場合は附属病院の病理診断科ではなく、医学部病因病態科学講座の診断病理学分野か、臨床病態病理学分野に在籍して、病理診断と研究を行うことになります。

 臨床医になって病理を深く勉強したいと思う先生も多く、大学院卒業後は病理の経験と知識を活かして、臨床で活躍することができます。また、大学院で病理の魅力に嵌った場合、病理医に転向することも可能です。病理はそれまでの臨床経験を活かせる診療科ですので、大学院を契機に臨床医から病理医に転向する先生も多数います。

実習・研修した先輩の言葉

佐賀大学OG、病理専門医、原稿記載時育休中

「結婚・妊娠・出産を経て、復帰前に思うこと」

 私は病理を学ぶ過程で、佐賀、福岡、九州各地や関東など様々な地域の先生方と交流する機会を頂きました。その経験を踏まえて、病理に対して知って欲しいことを記載させていただきます。病理の先生によって、意見は様々だとは思いますが、私は、「研修医の皆さん、今何科を目指しているにしても、ぜひ、まずはどこかで病理を経験してみては如何でしょう」と言いたいです。

 というのは、外科系、内科系、放射線、ありとあらゆる分野は、病理とどこかで関わりがあるからです。手術を行う科はもちろんのこと、内視鏡を扱う科も、摘出・採取したものをどこへ提出するでしょう。その後を知らずに適切に検体を扱う自信がありますか?適切な伝票を書くことが出来ますか?その結果が、患者さんに与える影響を想像したことはありますか?病理はカンファレンスや、他の科からの大学院生の出向も多く、今まで多くの先生方と話す機会がありました。その中で、一部の癖のある病理の先生に対して思うところはあっても、病理を学ぶことに対して後悔している先生は一度もお会いしたことが無いように思います。更に言えば、病理を本格的に学び始めてみると、学生時代にショッキングな実習レポートを提出していた方でさえ、病理にそのまま居着いてしまう先生もおられるほどです。中には学生時代のレポートは人のを写していた経歴がありつつも、沼にはまってしまい、教授にまでなられた方もいるとか、いないとか。

 

 放射線で診ている影の正体を、実物を観てみたいとは思いませんか?手術で生きている患者さんにメスを入れる前に、まず病理解剖を通じて、人体の構造を深く理解してみたいとは思いませんか?他科とのカンファレンスもそうですが、病理には他の科にとっても大変有意義な、多くの学びのチャンスがあるのです。身の回りで、他の科から病理に転身したという先生の話は必ず耳に入ることでしょう。その先生に学んでみてどうだったか生の声を聞いてみるのも良いかもしれません。

 

 そして、私の経歴から言わせていただくと、佐賀大学は、そんな病理をひと通り身につけるのにとても最適の場所だと言うことです。ある一定の分野に特化し、他の臓器を学ぶ機会が少ないわけでもなく、近年激減している病理解剖数も一定数保たれており、専門医を目指すなら最短も可能でしょうし、他の科を最終ゴールとしている先生にとっても、診療科どうしの垣根が低い佐賀大学なら、臨床と病理の情報をバランス良く、患者さんの役に立てることが出来ると思います。

 

 今後のことを悩んでいるなら、まずは試しに、研修先を佐賀大学、病理、と記入してみては如何でしょう。チャンスを活かせば医師人生の中で核となるものが得られると保証します。

佐賀大学勤務 病理専門医

「病理医になって、佐賀を救ってみませんか?」

 私が病理の大学院生となった時、佐賀大学医学部附属病院の病理検体数は約4500件でした。それから約15年、病理検体数はおよそ1.5倍の約7000件となり、細胞診、迅速診断ともほぼ同様のペースで増加しています。加えて、医療の進歩と共に病理診断は複雑・高度化し、診断に必要な免疫染色や遺伝子検査の数も増加の一途です。
その一方、佐賀大学(医学部+附属病院)のスタッフの数は2021年11月現在で4名と、私が在籍した15年の中では最も少なくなっています。しかも、4名全員がaround 50歳という状況です。スタッフ枠が少ないのではありません。病理専門医が少なく枠が埋まらないのです。病理医は全国的に不足しているので、他県からリクルートするのも至難の業です。

 

 佐賀県全体に目を向けてみます。現在、好生館や唐津日赤、国立佐賀病院や中部病院など、佐賀の基幹病院で佐賀大学縁の病理専門医が、佐賀県の医療を支えています。
がしかし、それらの先生方も、皆around 50かそれ以上の年齢です。これが何を意味するかというと、10~15年後にはそれらの先生方が相次いで引退し、深刻な病理医不足に陥るということです。病理医の育成には時間が掛かります。専門医は最短3年で取得できたとしても、一人で自信を持って診断できるようになるには、10年くらいはかかります。つまり、今後5年くらいの間に専門医研修登録を行う先生方が、次世代の佐賀を担う病理医となります。現在、専攻医が1名研修中で、来年もう1名増える予定ですが、全然足りません。本来、病理はワークライフバランスの取りやすい診療科の筈ですが、人員不足だとそうはいきません。専門の分担もできないため、勉強しなくてはいけない領域も広くなります。何だかネガティブな内容になりつつありますが、もし佐賀県で病理医となることを考えている人がいるなら、逆に今がチャンスとも言えます。

 

 今後5年程度の間に専門医研修登録を行う先生達であれば、現在のスタッフが盾となって、過剰業務にならないよう調整したり、診断責任を負ったりすることで、一人前の病理医になるまでのおよそ10年間、責任を持ってサポートすることができます。
また、一人前の病理医になるためには、「知識」と「技術(検鏡力)」を身に着けることが必要ですが、「検鏡力」は自分だけの努力で身に着けるのは中々困難で、先輩と一緒に検鏡するのが近道です。客観的にみて、現在の佐賀大学の病理診断は、相当の質を維持できていると思います。佐賀大学できっちり修練すれば、他の施設でも十分通用する病理診断力を身に着けることができます。また、他の大学に比べて病理解剖数が多いので、専門医受験に必要な症例数(30例)を比較的スムーズに経験することができます(少ない施設では5-10年かかる所もあります)。

 

 「勉強」と「検鏡」が好きで、病理医に興味がある人は、是非、佐賀大学で病理医を目指してください。

市中病院勤務 病理専門医

「ミステリー好きなら病理医オススメです」

 私は今、ある病院の病理診断科部長として働いています。初期研修後、直接病理学講座に入りました。実験病理の教室で細胞を培養しながら顕微鏡で観察することが好きでした。もちろん病理診断も行い、病理専門医で食べていくぞと決意しました。現在働いている病院は元々病理医がおらず常勤病理医が来ることを切望されていました。病理の世界に入って十数年のまだまだ未熟者なのですが、院内の先生方からはとても感謝されています。こんなに感謝されるの!?と驚きましたし、医師としても初めて認められた気がしました。患者さんからは直接感謝の言葉をもらえないかもしれません。
ですが病理医がいるのといないのでは臨床現場の動きやすさが違うのだと思います。このように医師から感謝してもらえるのは、病理医が稀少であるから故だと思います。「病理に行くの?なんで?」と言われる方もいるかもしれませんが、私は地域実習のクリニックの先生に「病理に進む」と話した時に、「それは素晴らしい。とても大切な仕事だからね。」そう言って頂いたことがあります。病理医は求められているのです。

 

 次に、佐賀大学で病理の後期研修するメリットをお伝えします。他の先生も仰っていますが、佐賀大学では満遍なく臓器を学ぶことができます。これは病理医として独り立ちするのにとても重要です。そして全国的には日々減少している解剖ですが、佐賀大学の解剖件数は保持されており、頑張れば試験資格の症例数にすぐに達します。解剖後は臨床病理カンファレンス(CPC)が行われますが、臨床医の参加人数もとても多いと思います(このプレッシャーが大事です)。主治医に自分の考察した剖検診断を発表するのですが、この過程と発表がかなり勉強になります。観察した所見を拾い集めて全ての知識を総動員して患者さんの死因を推理していきます。
私はミステリーや推理小説が大好きですが、こういう人はハマると思います。このCPCが佐賀大学は非常にしっかり行われていることがポイントです。実は病理専門医試験には合否の鍵と言われる解剖症例の問題があります。筆記と試験監との質疑応答まであります。佐賀大学のCPCでは教授や(味方のはずの)病理医、臨床医のプレッシャーを受けながら発表をするので、自然にこの試験の訓練になります。教授や臨床医の質問に比べたら、試験監督の質問は優しくさえ思えます。佐賀大学で学べばこの試験は突破したのと同じことです。

 

 病理学は広く奥も深い学問です。そして全てが繋がっています。腫瘍や疾患概念は日々更新されていきます。近年はそれが加速している気がしますが、病理医になったらこれについていかなければいけません。正しい診断ができないと困るのは患者さんだからです。その責任は病理医しか感じることができないプレッシャーです。日々新しいことを学べて刺激的ですよ。
他院の同期病理医とお話しした時に、「臨床では、ずっと同じことやるのかな、と思ったけど、病理にきたら飽きないと思った。」と言った先生もいました。医者人生を終えるその日まで、実は刺激的なお仕事なのです。それに眼さえあれば続けられます。2-3時間解剖で立ちっぱなしの体力があれば大丈夫なのです。

 

 最後に病理医のコミュニティーは良い意味で小さな世界だと思います。九州の病理医は仲良しで他院のお友達もできます。そう言った仲間とディスカッションするのはとても楽しいですよ。みんな稀少人種同士、助け合い仲良しです。いろんな分野の有名な先生にもすぐに会うことができますし、懐の深い先生が多いです。横の繋がりを作りやすく、海外の病理医もとても身近に感じられますよ。マニアックな分野だからこその親密感があると思います。国内外問わず留学したい先生にもオススメです。
話があちこち飛んでしまいましたが、皆様が想像するよりずっと刺激的なお仕事で一見の価値ありです。気軽に選択してまずは病理の世界を覗いてみてください。意外とハマると思いますよ!

佐賀大学勤務 病理専門医

「病理が気になる人へ」

 まさか自分が病理医になるなんて、学生時代はもとより研修医の時にも思ってもいませんでした。ところが大学院生として病理学の研究と病理診断に触れ、少しずつその面白さに惹かれるようになり、私はいつの間にか病理医としての道を歩んでいます。

 

 医師という職業にはいろんな分野があり、それぞれに違った特性や魅力があります。国家資格を得た後には、自分にフィットする分野を探して選択する自由もあります。その反面、医師としての生き方を絞り込めない人も少なくないでしょう。病理学に興味がある医学生は毎年それなりの数がいるようです。
今の医療においてどれだけ病理診断が重要であるのか、またそのやりがいについても理解してくれていると感じています。でも、なかなか「病理医」になろうという人は絶対的に少なく、日本では病理医が全く足りないのです。特に佐賀県の病理専門医は少なく10名そこそこしかいません。

 

 病理診断は今、転換期を迎えています。これからは病理形態像と遺伝子異常を組み合わせた病理診断学が中心になっていきます。日に日に新しい知見や疾患概念が登場しており、若い人たちが活躍できる世界が無限に広がっています。自分の診断によって適切な治療が行われた時には、この上ない喜びを感じることができます。
臨床医を10年以上経験している人であっても、「病理、面白いかも…」と思ったら全然遅くありません。

病理が気になっている人へ。今こそ、病理の世界に一歩踏み出してみてはどうでしょうか。

市中病院勤務 病理専門医

「佐賀県内の一般病院の病理専門医として」

 私は大学院を卒業して以来、ほとんど現在の病院で勤務しており、一般病院の病理医として書かせてもらいます。大学病院の病理医との大きな違いは、病理診断の比重が重く教育や研究の比重が軽いことです。「病理診断は好きだが研究はあまり・・」という私には適した環境です。診断は年間6000件を越える組織診断を2名の病理専門医でカバーしています。毎日病理標本がきますので標本がたまらない様にできるだけ早く正確な診断を心がけています。診断に迷った場合は外部の専門的な病理医に積極的にコンサルトをします。

 

 「研究はあまり・・」ですが、自分が経験した珍しい症例や診断に難渋した症例などは学会発表や論文作成をします。もちろんやる気があれば大学病院や自施設で研究することも可能です。病理に興味を持っている学生さんや研修医の先生の中で「病理医としての将来設計」に不安を抱いて躊躇している方がいるかもしれません。ある程度の診断力(まずは病理専門医が目標)がつけば大学病院以外にも一般の常勤病理医という就職先があります。
現在は佐賀県に病理医が少ないため私たちのような一般病院の病理医はあまり多くありません。しかし若い病理医が少しずつでも増えていけば県内外の一般病院に佐賀大学所属の病理医が増えていくことを期待しています。

佐賀大学・佐賀県の病理医事情など

病理専攻医

  • 令和3年度:1名 (来年度1名増加予定)

佐賀大学で病理医専攻医となった場合の立場は?

a.後期研修医として病理医を目指す場合

 現状では、佐賀大学医学部附属病院 病理診断科の医員として勤務しながら、連携施設(佐賀県医療センター好生館)で週1回研修するという形式です。

 専攻医が増えた場合は様々な研修パターンが可能です(リンク:佐賀病理研修プログラム 参照)。

b.大学院生から病理医を目指す場合(臨床医からの転向)

 医学部病因病態科学講座の診断病理学分野か、臨床病態病理学分野に大学院生として在籍して、病理診断と研究を行いながら研修を行う、という形となります。

病理専門医取得後の進路は?

 大学の教員となる [ 医学部病因病態科学講座(診断病理学、臨床病態病理学)、附属病院病理診断科 ]、佐賀県内の医療機関に就職する、佐賀県外の医療機関に就職する。など、様々な進路が考えられます。いずれにせよ、病理専門医は就職には困りません。

佐賀大学で病理専門医を取得した病理医が勤務する医療機関

  • 佐賀県医療センター好生館
  • 唐津赤十字病院
  • 国立病院機構佐賀病院
  • 佐賀中部病院
  • 高木病院
  • 佐世保中央病院

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